薄暗い自室にて

小説の断片

「黄色い線の内側までお下がりください」

駅のアナウンスがやけに鮮明に聞こえる。

遠くに見える真っ黒なガラス窓が陽炎で揺らいでいる。

目の前の線路はまるで黒い悪魔が手招きしているように張りつめている。

走馬灯くらい幸せな思い出を。そう願っていたが、何も浮かんでこない。

気づいたら、そっと触れられそうな距離を電車が駆け抜けている。

風さえも通り抜けて静かになった目の前の線路は、無機質なものに変わっていた。

しばらく宙を見上げてみて、今日もダメか、とうなだれて階段を下りていく。

そんな自分を想像して、人混みの列に並んでいる。

静かに停車した各駅停車のドアが開く頃には両耳には別の曲が流れていた。

本当にホームの端に立ってみたら、何を思うんだろうか。

 

3日前のことは思い出せないし、空は相変わらず青い。

いつも考えているそんなことを思いながら線路に立っている。

先頭車両が赤と青で塗りつぶされた光景が、まるで絵画のように静止して広がった。

その黄色いライトから噴き出す真っ赤な血はまるで虹のようだ。

止まっているようで動いている、そう認識するまで、とても時間がかかった。

ふと、この鮮やかな光景が走馬灯でも満足かもな、と思った。

「どうぞ」

隣にきたお年寄りが席を譲ってもらっていた。

 

窓の外に目をやると、青く見えていた夕焼け空が灰色に染まっていた。

頭の中でため息をついた。

ニーチェの哲学を否定できたところで、光が見えるわけでもない

別に光が見たいわけでもない。

だが、

あの巨体に全身でぶつかりに行けるほどの血気があれば、

空はもっと鮮やかに映るんだろうか。

 

自殺をしても生き返れたらな

そんな妄想をしながら、締め切った6畳の机で野菜炒めを口に運んだ。

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