無題(仮)抜粋

思ってもないのに励ますなよ

僕は何もできないのに

勘違いして人生狂うじゃないか

だから全部疑ってやる

全部疑って自分が進むべき道を進んでやる

全部疑って自分が何もできないことを証明してやる

でも、、、そしたら何が残るの?

いいんだよ、もともと何もないんだ

ほんと?

ほんとだよ、疑って全部疑いきったら自分しか残らないんだ。それが現実なんだよ

 

突然。僕の視界は彼女の顔でいっぱいになった。

一瞬のできごとだった。

生まれて初めて、我を忘れていたことに気づいた。

「私も、いないの?」

「、、、考えさせて」

「ええ」

 

 

我を忘れることがどういうことか、少しだけ分かった気がしたよ

彼女は少しうつむき、頭を掻いた

そうやって自分に蓋をして、何者も踏み入らせないようにして、、、

たぶんね、、、踏み入れられてないと思うのは、君もそうだからだよ

僕は、、拒んでいるつもりはないよ

ただ時間が流れているだけだもの

、、、僕には君が分からない

少し悲しい表情をするであろう彼女は、なぜだか少し穏やかな表情をしていた、ように僕には見えた。

分からないのは当然でしょ?わかってほしいなんて思わないわ

自分のことは自分がわかっているのならそれで十分なのよ

僕には自分のこともわからない

そうでしょうね

でも僕は分かってもらいたい

わがままね

でも自分のことすらわからないから何を目指せばいいのかわからないんだ

そうでしょうね。

自分のことが分かるって、つまらないものよ

誰に褒められるわけでもないし

うまく生きていくことだけできるようになって、寂しさが増したわ

私はあなたが羨ましい

 

そんなことない。羨ましいのは君だよ

嘘よ

ほんとさ、だって、、、だって、ほんとさ

羨ましくなんかないのよ。

あなたは私の要素を取り込みたいだけでしょ?

―――しばらくの沈黙が流れた。

それは図星を衝かれたことによるものではなかった。

想定外の発言が飛んできたことによるものでもなかった。

少し縮んでいたように錯覚していた心の距離が無限に離れていることを悟っての間だった。

たしかにお互いの心は向かい合っていた。

しかし、向かい合っている心が近づくことはあるはずがなかった。

一方が近づけば遠ざかり一定の距離を保とうとしているといった類のものではない。

そこには心の物理的距離が近づいても埋まらない根源的な溝があった。

二つの異なる原子が絶対に同じ空間を共有しないような、そんな悲しさがあった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました